空白の3時間と五郎さん
ぽっかり予定が空いてしまった。実行委員会は12時過ぎに終わり、16時から始まるクラス幹事会の30分前に再集合らしい。予定を入れてない僕にとっては「空白の3時間」ができたことになった。
ぷらぷら散歩しながら金沢駅まで歩こうと計画してみたのだが、あいにくの雨でそうもいかなくなってしまった。いったん自宅に戻るというS野くんの車で金沢駅に落としてもらうことにした。
とにかく腹が減った、そう自覚したとき、孤独のグルメの五郎さん(主人公の井之頭五郎さん)が、そうつぶやくシーンが浮かんだ。どこかで昼めしでも食って、時間をつぶそう。
こんなとき、ドラマの松重さん(五郎さん役)なら、自分の嗅覚を頼りに大股で歩きながら、旨い町中華とか老夫婦がやっている古い定食屋なんかを見事に見つけてしまうのだろうが、現実はそうそう甘くない。
何しろ、連休初日の金沢駅は想像以上に、人でごった返していた。マンボウ解除の1~2週前から観光客が一気に増加したのは知っていたのだが、例の三陸の地震、それに伴う新幹線の分断があって、東北を予定していた人たちが、急きょ北陸に流入しているらしい。駅だけではなく、となりのフォーラスまでひと通り歩いてみたのだが、飲食エリアはどこも長い列で、尻込みするしかなかった。
結局、駅舎から外へ出て、雨の中を、とある店を目指して少し歩くことにした。
この店の入り口には水槽があって、そこに活ズワイガニがたくさん動いている。そうか、この連休が蟹シーズンのラスト商戦なのかもしれない。一人だし値段も値段だから、蟹はもちろん見るだけだ(笑)。お薦めの刺身や魚料理のランチもいいのだが、目当てはここの「親子丼」だった。
ここの親子丼は旨い。そして安い。ごはんを少なめに、と言うのを忘れて、あのビッグサイズのやつが出てきてしまった。丼の上にど~んと乗った鶏肉は炙ったやつで風味も良く、卵はトロトロの今風のやつだ。そして「生姜あん」を使った味変(あじへん)が面白い。
どういう理由か分からないのだが、なぜかシンプルな野菜サラダが付いている。保健師の指導を思い出しながら、まずはサラダをゆっくり平らげることにした。単なる作り置きの品ではなく、ちゃんとしたサラダだ。
ここの親子丼のボリュームはすごいので、ある意味で途中での休憩が必要だ。そんなときは、別添えの「生姜あん」をかけると、この親子丼が別のどんぶり料理に変身するような感じになる。これが旨いのだ。まぁ時間はたっぷりある。いつもならワシワシ掻っ込むのだが、この日は木製スプーンで行儀よく食べることにした。
五郎さんならどんな風に食べるのだろうか(笑)。このドラマは、ある種のグルメものなのだが、いわゆる「うんちく」は全く出てこない。ほとんどが主人公の独りごとだ(まぁ心理描写かな)。味の表現も「こいつはいける」とか「これだ、これ」とか、単純で庶民的なコメントだし、脇役として紹介するのは「ネギだけの味噌汁」とか「このタクワンが輝いている」とかなんとか(まぁそんなイメージで)、とにかく地味なのだ。そのあたりが長寿ドラマの秘訣なのかもしれない。はっきり思い出すのは、健啖家の主人公が、恐ろしい量(品数やお替り)を食べて、最後ににっこり笑みを浮かべて「ごちそうさま」とつぶやくシーンくらいかもしれない。
さて、僕のランチだ。ゆっくり時間をかけて食べたつもりだが、たかがランチだから20分ほどしかかからない。もうおなかが一杯だ。五郎さんのように、ここで冷やし中華やぜんざいの追加などはあり得ない(笑)。食べる以外には何もできないから、ひと息ついたら残り時間のネタを求めて、次へ向かうしかない。空白の時間つぶしは大変なのだ(笑)。
駅の本屋に立ち寄ってみたが、時間つぶしになる訳ではなかった。その本屋は駅舎の中だが、外れの方にあって静かだ。とはいえ狭い店だから、小説も雑誌も限られたものしか扱っていない。あぁ、あっちの大型書店の方が良かったかなぁ、などと思うが、あとの祭りだ。どっちみち、立ち読みは苦手なのだ。仕方がない、本を1冊買って、どこかでコーヒーでも飲みながら本を読もう。なにせ、まだ1時間以上ある。
実はこのあと、さらに「旨いやつ」に出会ってしまった。まぁそれは五郎さんぽい話ではないので、また別の機会に。